次世代核酸ラボFDの須藤研究統括リーダー、同藤田研究員、神戸大学藤野英己教授らの共著論文が、スイスのMDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)が発行するオンライン科学雑誌「life」に2024年12月6日付で掲載されました。この論文は「骨格筋の萎縮やサルコペニアに対する核酸摂取の効果」というテーマで、神戸大学の藤野英己教授と進めている共同研究の内容をまとめたものです。
論文タイトル | Dietary RNA from Torula Yeast Prevents Capillary Regression in Atrophied Skeletal Muscle in Rats (トルラ酵母由来の食餌性RNAはラットの萎縮した骨格筋の毛細血管退縮を防ぐ) |
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論文概要 |
毛細血管は筋肉量の維持や増加に重要な役割を果たし、筋繊維に栄養やホルモンを届けることで筋肉機能を支えています。運動不足や活動制限といった慢性的な神経筋の不活動状態は、筋萎縮や毛細血管の退縮を引き起こします。本研究ではこのような不活動による筋肉の委縮と毛細血管退縮に対する核酸(DNAおよびRNA)摂取の影響を調査しました。
実験では、4つのグループにラットを分けました。対照群(CON)は通常の活動環境で飼育を行い、活動制限群(HU群)では後肢を吊り下げることで慢性的な不活動状態を再現しました。また、HU群にDNAを摂取させた群(HU+DNA群)およびRNAを摂取させた群(HU+RNA群)を設け、それぞれの効果を比較しました。DNAまたはRNAは1日1500mg/kgの量を2週間にわたり経口投与しました。 2週間の活動制限後、ヒラメ筋の重量減少とともに毛細血管数を筋繊維数で割った比率(C/F比)の減少がHU群で観察されました。この変化には、活性酸素種(ROS)の蓄積や抗酸化酵素「スーパーオキシドディスムターゼ-2」(SOD-2)の減少、抗血管新生因子「トロンボスポンジン-1」(TSP-1)の増加が関連していました。 これに対し、RNAの摂取はミトコンドリア代謝に関与する「コハク酸脱水素酵素」(SDH)や、SODの活性を高め、活動制限による毛細血管の退縮を防ぐことが確認されました(図)。さらに、RNAを摂取した群では、DNA摂取群よりもROSの蓄積が抑えられ、SOD-2およびTSP-1タンパクの発現レベルが対照群と同等に維持されました。 以上の結果から、RNAの摂取が筋萎縮、およびそれに伴う毛細血管退縮を防ぎ、酸化ストレスを軽減することで筋肉内の毛細血管密度を維持する有効な手段であることが示されました。本研究は、運動不足や活動制限期間中における栄養介入の重要性を強調し、酵母由来RNAの利用に関する有益な知見を提供しています。 【図】 図では、各グループのヒラメ筋の毛細血管構造をアルカリホスファターゼ染色によって可視化しています。 ヒラメ筋のアルカリホスファターゼ染色(A~D)およびC/F比染色(E)。CON(A)、HU(B)、HU + DNA(C)、HU + RNA(D)。毛細血管は黒い染色像で可視化されています。(スケールバー=50μm)。値は平均±SEM(n=6)です。CON:コントロール、HU:後肢無負荷、HU + DNA:後肢無負荷+DNA、HU + RNA:後肢無負荷+RNA。記号*、†、および‡は、それぞれCON、HU、およびHU + DNAグループに関してp < 0.05で有意差があることを示しています。実験では、HU群で毛細血管ネットワークの損傷が確認され、C/F比が有意に低下しました。一方で、RNAを摂取したHU+RNA群では骨格筋の毛細血管退縮が抑制され、C/F比の低下が防がれていることが示されました。 |
著者 | Hao Lin,Jihao Xing,Xiaoqi Ma,Ryosuke Nakanishi,Hiroyo Kondo,Mica Fujita,Keita Sutoh,Noriaki Maeshige,Hidemi Fujino |
掲載論文は、下記のリンクより閲覧できます。
https://www.mdpi.com/2075-1729/14/12/1616