核酸関連論文

線虫に対するサケ白子抽出物の生理的機能とその作用メカニズムの解明を目的に行われたこの研究では、低分子のDNAを約30%含むサケ白子抽出物を、線虫の培地に添加して4日間飼育した。その結果、体長の増加、平均寿命の延長、生存率の上昇、老化に伴う運動機能低下の抑制がみられた。さらに熱ストレスや酸化ストレスによる生存率の低下に対しても抑制効果を示した。また、RT-PCR解析から酸化ストレス耐性遺伝子であるSOD-3やSOD-4の発現の増加が確認された。これらの結果は、サケ白子抽出物は酸化ストレス耐性遺伝子の発現を増加させ、酸化ストレス耐性を向上することで、線虫の運動性を上昇させ、寿命を延長させていることを示唆している。

加齢に伴う学習・記憶能力の低下、行動や外観の変化、生殖・繁殖能力の低下に対するDNAの効果を評価するため、2カ月齢の老化促進マウス雌雄14匹にDNAを配合した飼料を10カ月間投与した。その結果、DNA投与群において学習・記憶能力の低下、及び老化による行動や外観の変化が有意に抑制された。さらに、DNA投与によりマウスの生殖・繁殖能力が向上した。肝臓中のSOD活性、及びカタラーゼ活性がDNA投与群で有意に高かったことから、抗酸化活性がマウスの老化現象の進行抑制に関与したと考えられた。これらの結果から、DNAの摂取は高齢者における脳の健康状態の維持、及び行動・外観、生殖機能の維持に有用であることが示唆された。

マウスを対照群とDNA投与群に分け、対照群には市販のエサ、DNA投与群には同じ市販のエサにサケ白子から抽出したDNA(Na塩)を1%となるように混合したものを与え、水と一緒に自由に摂食させて12週間飼育した後、マウスの走行耐久力への効果について検討した。トレッドミルによる走行試験の後、屠殺して生化学分析を行った。その結果、DNA投与群は対照群と比較して走行距離が有意に長くなり(p<0.05)、大腿筋中のグリコーゲン含量、及び血漿中のグルコース濃度が有意に高くなった(p<0.05)。これらの結果から、DNAの投与によりマウスの走行耐久力が増強されることが示され、この効果はDNAが糖代謝に何らかの影響を及ぼすことに起因している可能性が示唆された。

シクロホスファミド (CP) によって誘発される胸腺細胞のDNA損傷に対する食事性ヌクレオチドの影響をマウスで調べた。30匹の雄の昆明マウスを陰性対照 (NC)、陽性対照 (PC)、ヌクレオチド群 (NG)の3つの群に分け、NCおよびPCのマウスにはヌクレオチドを含まない餌を与え、NGのマウスにはヌクレオチドを補充した餌 (0.25%のリボヌクレオチドを補充し、AMP、CMP、GMP、UMP を等量含む混合物) を与えた。PCおよびNGグループのマウスには、21日目にCP (150 mg/kg 体重)が注射され、胸腺細胞のDNA損傷はCP注射の18時間後に評価した。結果は、食事のヌクレオチドが胸腺と脾臓の重量またはそれらの器官指数に影響を与えないことを示している (p > 0.05)が、コメットセルのパーセンテージとコメットテイルのサイズを大幅に減少させる (p < 0.01)。この研究は、食事性ヌクレオチドがマウスのCPによって誘発される胸腺細胞のDNA損傷のレベルを低減できることを示している。

免疫細胞の一種であるヘルパーT細胞には1型(Th1)と2型(Th2)がある。主としてTh1は感染に対する防御機能を担う一方、Th2はほこりや花粉、寄生虫、食物に対する免疫を担っている。Th1はインターフェロン(IFN)-γを産生し、Th2はインターロイキン(IL)-4を産生する。これらのサイトカインは相互に作用して、Th1-Th2バランスが均衡すると免疫は正常に保たれる。しかし、バランスが崩れてTh1が優位になると自己免疫疾患の発症につながり、Th2が優位になるとⅠ型アレルギーを発症しやすくなる。本研究では、成長期のヌクレオチドの投与がTh1-Th2バランスに与える影響を検討した。卵アレルギーの主な原因となる卵白アルブミン(OVA)を原因とする食物アレルギーを発症するよう遺伝子改変した3週齢のマウスにヌクレオチドを4週間投与して、その脾臓細胞をOVA刺激下で培養し各種サイトカインの産生量を定量した。その結果、ヌクレオチド添加飼料を与えられたマウスでは、OVA刺激した脾臓細胞のIFN-γ産生量は、ヌクレオチド非添加飼料を与えられたマウスに比べて有意に高く、さらにIL-4産生量も減少傾向にあった。IFN-γ、IL-4はそれぞれTh1、Th2から産生されることから、サイトカイン産生の観点からも、ヌクレオチドの摂取はTh1-Th2バランスをTh1優位にすることで、アレルギーの発症を抑制すると予想される。

脳内の脂質代謝と学習能力における食事由来ヌクレオチドの影響を調べるため、リボヌクレオチド1%添加飼料、もしくは無添加飼料を雄のラットに5週間与えた。脳内のホスファチジルコリン(PC)量の増加は学習能力を高めると考えられているが、ヌクレオチド添加飼料を与えられたラットの大脳皮質では無添加飼料を与えられたラットよりもPC含有量とPCのホスファチジルエタノールアミン(PE)との比が著しく大きく、PC画分中のドコサヘキサエン酸、アラキドン酸レベルも高かった。また、T字水迷路試験と受動回避試験による学習能力評価ではヌクレオチド添加飼料を与えられたラットの方が無添加飼料を与えられたラットよりも優れていた。この結果はラットにおける食事由来ヌクレオチドは大脳皮質での脂質代謝と学習能力向上への影響を示唆する。

29種類の食品中の核酸量について、動物系の食品をSTS法で、植物系の食品をHPLC法で解析した。それぞれをDNA、RNA、酸性画分に分画した。酸性画分には、遊離塩基、ヌクレオシド、遊離ヌクレオシドのような低分子核酸と、そのほか酸性溶解成分が含まれる。 その結果、生重量100gあたりの換算による核酸量で、豚レバー、サケの白子、海苔、牡蠣、アサリ、パン酵母が核酸を多く含む食品としてあげられた。RNA・DNA含有量別にみると、RNAの方が多く含まれていた食品は、パン酵母、海苔、大豆、豚レバー、牡蠣である。一方、DNAの方が多く含まれていた食品はサケの白子である。アサリはDNAとRNAがほぼ等分に含まれており、酸性画分は、酵母、海苔に多く含まれていた。

炭素の放射性同位体(14C)で塩基に放射標識を付けた標識DNA(14Cでチミンに放射標識)、標識RNA(14Cでウラシルとシトシン、またはアデニンに放射標識)を餌に混ぜてマウスに投与し、経時的に14C放射活性を測定することで体内動態を調べた。その結果、投与したDNA、RNAのいずれにおいても、ほとんどの放射性同位体は4時間以内に消化管内から消失しており、これら核酸塩基を含むポリヌクレオチドは、何らかの分子の形で速やかに体内に吸収されることが示唆された。また、核酸塩基の種類によって排泄経路と速度が異なることがわかったほか、ウラシルとシトシンを含むポリヌクレオチドは消化管内でヌクレオシドに分解されたのちに吸収されることや、アデニンを含むヌクレオシド(アデノシン)はイノシンに代謝されたのちに吸収される可能性があることが示唆された。

経口摂取された核酸の体内動態を調べるために、炭素の放射性同位体(14C)で塩基に放射標識を付けた酵母由来RNAをマウスに経口投与し、投与後の組織または血液、尿に含まれる放射性同位体を経時的に調査した。グアニンに放射標識したRNAを経口投与すると、組織および尿中から放射活性が検出されたことから、ポリヌクレオチドRNAの体内への吸収が確認され、消化管吸収されたポリヌクレオチドRNAの多くが生体に利用されたことが示唆された。組織への放射性同位体の移行は比較的早く、投与6時間後にはピークに達し、総投与量の0.1%が全身(肝臓、小腸、腎臓、心臓、肺、骨格筋、血液)から回収され、その後徐々に組織中の放射活性は低下し、投与48時間後には投与した放射性同位体の50%が糞から、20%が尿中から回収された。また、アデニンとグアニンではアデニンを有する核酸の方がより体内に吸収されやすい可能性も示唆された。

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